六所権現の霊地也、
彼いただきに巌穴あり、
長時に猛火もえ上りて、雲に續く、
いつとなく黒砂ふり下りて、
すゑ何千里とはかる事なし、
然れども彼峯を
何の本地ともしらざりけるを、
はりまの国、書写の山を建立してける、
證空上人彼峯に登山して、
我この神の本地を拝み奉らんと
誓ひ給ひて、
七日参籠して、
法花経をどくじゆせられける、
五日といふ子の刻ばかりに、
大山震動して、岩崩れ、
めう火もえて、
ことに煙りうずまきて、
暫ばかりして、
廻り一二丈そのたけ十余丈ばかり
ある大蛇の、
角はかれ木の如くおほひかかり、
眼は日月の如くかがやきて、
大にいかる様にて出来給ふ、
上人是を御覧じて、
此山の有さまを見るに、
もとより龍宮じやうとは
ぞんぜられ候ぬ、
思ふにすゐじやくは龍のすがたにて
あつし候か、
本地をこそ拝み奉度候へ、
とくとく本地を現はさせ給へ、
あしくもげんぜさせ給ふものかなとて、
はたと守り奉る、大蛇本地に帰りぬ、
つぎの日の未の刻計に、
三尺計なる大鷹の尾ふさの鈴を
ふりならして、
めう火の中より飛び出て、
前なる平岩に居たり、
しやうくう腹を立て、
龍をだに用ひ奉らず、
いはんやいやしき野鳥のすがたをば
用奉るべきや、
然らば心眼ともにひらきて、
仏体を拝み奉らんとこそ思ふに、
見仏せざらんには、
双眼ともに無益なりとて、
どこを持て双眼をささんとし給へば、
鷹去てしばらく計して、
十一面の観音光明かくやくとして
幻のごとくにて見えさせ給ふ、
その時上人夢うつつともわかず、
ずゐき申ばかりなくして涙を流されけり、
性空上人心中のせいぐわんには、
こんど仏たいを拝み奉程ならば、
法華の行者と成て、彼教に従ひて、
衆生をけどせんと誓はる、
したがひて心願成就のうへは、
法華を殊に信仰し給へり、
此煙の中より光さして
末のとどまらん所を、
我在所と定めんと思召されけるに、
煙の中より光をさして、
はりまの国書寫にとどまる、
よてかの所をこんりうして、
長きすみかとし給ふ、
かかるごんけの人の徳を
ほどこし給へる峯なれば、
成経も参籠して拝まばや、
|